2021年のIPOセカンダリーランキング

2021年のIPOは113社。例年通り12月はIPOラッシュで34社も

2021年の東証へのIPO(新規上場)数は113社となりました。コロナ禍によって、2020年に上場を延期する企業が相次いだことも影響した面はありますが、企業の成長意欲は旺盛な状況と言えるでしょう。一方、2021年のIPO市場においては、IPOラッシュ月である12月の活況が例年に比べて非常に目立っていました(図表1参照)。

新たな事業やビジネスモデルを武器に、さらなる成長を目指す企業の上場が増えることは投資家にとってもよろこばしいことです。しかしその反面、クリスマス休暇などで海外勢の動きが鈍ることもあって、どうしても商いが薄くなりがちな12月に例年以上にIPOが集中したことで資金が分散。銘柄数も多過ぎて分析などが間に合わず積極的に動けなかった投資家も出たようです。

さらに、2021年12月はFOMC(連邦公開市場委員会)が市場の様子見ムードを強める大きな要因のひとつとなっていました。これを通過したことで投資家心理が改善したのも束の間、日銀(日本銀行)のコロナ対応策の縮小発表、中国の景気減速懸念の台頭などによって株式市場が大荒れとなったことも手控えムードを強めた面もあったでしょう。これらが絡み合い結果的に12月はネガティブな状況につながることとなりました。

そのため「銘柄数」で見れば活況のように見えるものの、「初値(平均やその後の値動きも含め)」という観点ではここ数年と比べると失速した感もあるといった格好でした。なお、実際に売買を行う投資家の視点では初値が期待値に届かないのは困りものですが、客観的な視点ではこれまでIPO投資が過熱し過ぎて初値が高騰気味だった面もあるため、失速といっても、過度にネガティブ視する必要もないというのが正直なところです。

IPO数の推移、12月IPO数の推移(東証のみ、テクニカル上場除外)

(図=編集部作成)
(図=編集部作成)

■上昇率トップはアスタリスクで最大騰落率は4.6倍超

簡単ながら全体の総括が終わったところで、さっそく本題に入りましょう。今回は「2021年のIPOセカンダリーランキング」を紹介したいと思います。2021年に新規上場した銘柄を対象に、初値を基準として同年内につけた上場来高値との比較による騰落率を算出。パフォーマンス上位50社をまとめています(図表2)。

▽図表2:2021年 IPOセカンダリーランキング

銘柄名コード市場初値(円)2021年
上場来高値
(円)
上昇率(%)2021年末
終値
(円)
1アスタリスク6522マザーズ1,4406,685364.23,000
2シキノハイテック6614JQ1,2215,240329.22,207
3サイエンスアーツ4412マザーズ4,54518,690311.26,900
4アイドマ・ホールディングス7373マザーズ1,7155,705232.73,180
5日本電解5759マザーズ1,9005,640196.85,490
6QDレーザ6613マザーズ7972,070159.7738
7Enjin7370マザーズ2,1505,220142.82,239
8GRCS9250マザーズ5,40013,000140.75,750
9アールプランナー2983マザーズ5,00011,350127.09,630
10ベイシス4068マザーズ5,20011,510121.34,875
11プロジェクトカンパニー9246マザーズ3,5007,270107.73,760
12シンプレクス・ホールディングス4373東11,6603,370103.02,845
13JDSC4418マザーズ1,6813,12085.62,142
14コアコンセプト・テクノロジー4371マザーズ7,04012,74081.07,080
15リベロ9245マザーズ1,9403,48079.42,819
16HYUGA PRIMARY CARE7133マザーズ3,6406,47077.76,000
17サーキュレーション7379マザーズ3,2055,54072.93,680
18Green Earth Institute9212マザーズ1,1601,99471.91,850
19紀文食品2933東11,2712,16470.3969
20サスメド4263マザーズ1,5002,50066.72,115
21プラスアルファ・コンサルティング4071マザーズ2,7204,48064.73,180
22サイバートラスト4498マザーズ6,90011,22062.63,170
23ビジョナル4194マザーズ7,15011,55061.59,710
24フレクト4414マザーズ5,8109,31060.23,235
25オキサイド6521マザーズ6,54010,30057.57,330
26スパイダープラス4192マザーズ1,7222,62952.71,327
27湖北工業6524東25,3008,07052.37,260
28タンゴヤ7126JQ1,7032,58952.01,951
29ファブリカコミュニケーションズ4193JQ3,4505,24051.92,564
30リニューアブル・ジャパン9522マザーズ1,6632,50050.31,709
31ステムセル研究所7096マザーズ4,8307,22049.54,760
32コラントッテ7792マザーズ1,3852,00544.8702
33テスホールディングス5074東12,0102,89043.82,061
34室町ケミカル4885JQ1,4242,04543.61,086
35CS-C9258マザーズ1,2051,72242.91,291
36ワンキャリア4377マザーズ2,5003,56542.62,925
37ジィ・シィ企画4073マザーズ2,5603,65042.61,339
38ステラファーマ4888マザーズ7121,01242.1920
39セキュア4264マザーズ2,1853,10041.92,365
40エフ・コード9211マザーズ6,0008,50041.78,500
41メディア総研9242マザーズ3,1054,39541.51,590
42コンフィデンス7374マザーズ2,9114,12041.51,801
43アルマード4932JQ8611,21441.0593
44ベビーカレンダー7363マザーズ9,40013,05038.82,970
45ラキール4074マザーズ2,4803,44038.72,323
46アピリッツ4174JQ1,8672,56037.1591
47BCC7376マザーズ3,3504,59037.01,440
48ハイブリッドテクノロジーズ4260マザーズ73099636.4780
49ウイングアーク1st4432東12,0002,70535.32,296
50i-plug4177マザーズ6,0008,11035.25,530
※東1は東証1部、東2は東証2部、JQはジャスダック。上昇率は初値と2021年上場来高値との比較。


上昇率トップはアスタリスク(6522)で騰落率は364.2%。つまり、初値から最大で4.6倍以上になった計算になります。2位はシキノハイテック(6614)、3位がサイエンスアーツ(4412)、4位がアイドマ・ホールディングス(7373)、5位が日本電解(5759)となっています。どの銘柄もよく株式市場でも話題になっていたので、名前を記憶している方も多いでしょう。

アスタリスクは、モバイル機器に装着して使用するバーコードリーダーやRFIDリーダーなどのハードウエアの開発・販売を中心に事業を展開している企業です。同社は、ファーストリテイリング(9983)との特許訴訟で勝訴したこともあって、これが知名度向上に寄与していました。

シキノハイテックは、半導体製造工場で使用される検査関連機器および装置を扱っている企業です。「公開規模の小さい直近IPO銘柄」「半導体関連」としてのテーマ性も相まって、短期資金の関心も集めたことで株価の急騰具合には目を見張るものがありました。

サイエンスアーツは、デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom(バディコム)」を展開している企業です。コロナ禍という追い風も相まって、事業に対する投資家の関心も強かったほか、公開規模の小さい企業だったこともあって、上場後も強い値動きを継続しました。

今年の注目はステラファーマとサーキュレーション

最後に今後の値動きに注目したい直近IPO銘柄としてランキング表の中から4銘柄を紹介しておきます。まずは、ステラファーマ(4888)とサーキュレーション(7379)。前者はがん治療法のひとつである「BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)」に用いるホウ素医薬品の開発を手掛けているニッチ企業です。珍しいという言い方にはやや語弊がありますが、BNCTは日本が世界をリードしていると言ってもよい領域であり、BNCTの展開への期待とともに同社への関心も足元で強まっています。

また、サーキュレーションはプロシェアリングサービスを展開する企業です。同社が描いている地銀およびメガバンクを中心としたアライアンス構築が進むなかで、評価が改めて高まってくる余地がありそうです。

そのほか、12月のIPO銘柄の中からは、治療用アプリの開発等を手掛けるサスメド(4263)と発酵技術(バイオプロセス)をコア技術とする技術開発型ベンチャーのGreen Earth Institute(9212)が見直しの動きに向かう可能性が高いと期待しています。サスメドは2021年末に不眠症治療用アプリに関して、塩野義製薬と販売提携契約を締結するなど期待感も高まっています。また、Green Earth InstituteはESGやSDGsに対する関心も強まる中で存在感を発揮していくことになるでしょう。

今回紹介しなかった銘柄の中にもおもしろい企業は多くあります。ランキングを見直して、事業内容について把握していない企業がもしあれば、ぜひお時間のある時に詳しく調べてみてはいかがでしょうか。

文・若杉篤史(RAKAN RICERCA)