Oakキャピタルの再起をかけた挑戦。新社長に聞く“逆転の戦略”とは


独立系投資法人であるOakキャピタルが、安定的な収益の獲得が可能な事業モデルへの大変革期を迎えています。指揮をとるのは、新たに代表に就任した稲葉秀二氏。Oakキャピタル 稲葉氏が目指す新しい事業モデルや、今後の展望などを聞きました。(聞き手:SmallCap ONLINE編集部)

目次

  • 新生Oakキャピタルの“いま”を動画で発信
  • 「25・2・60」の実現に向けテコ入れを進める
  • グループ全体で着々と進む事業多角化
  • 株主との対話を通じて企業価値最大化へ

Oakキャピタル 代表取締役社長
稲葉 秀二
1985年 リクルート入社。1995年 日本貿易振興会(現JETRO)出向。2004年 リクルート・ビジュアル・コミュニケーションズ 取締役就任。2006年 UNIVA CAPITAL Groupを設立し、会長兼グループCEO(現任)として、世界16ヶの国・地域において、15事業61社に渡る連邦型企業グループを形成。2021年6月 Oakキャピタル 株式会社 代表取締役社長に就任。

新生Oakキャピタルの“いま”を動画で発信

−−新生Oakキャピタルの社長就任ついて教えてください。

2021年6月にOakキャピタルの社長に就任しました。私が設立した会社、UNIVA CAPITAL Groupの会長兼グループCEOと兼任という形になります。

Oakキャピタルは150年以上の歴史をもつ企業ですが、私が引き継いだときは直近3期で連続赤字という厳しい経営状況でした。

就任後、立て直しを図るべくさまざまな戦略を打ち出していますが、その中で象徴的な取り組みのひとつが「Koh-EN TV」です。新生Oakキャピタルの現状や、今後の見通しなどを発信してるので、ぜひチェックいただきたいと思っています。

−−「Koh-EN TV」はどのような取り組みでしょうか。

「Koh-EN TV」は、Oakキャピタルの新経営戦略のひとつである動画配信メディアです。ステークホルダーの皆さまとの双方向コミュニケーションの実現を目指し、スタートしました。

2021年11月から毎月1本以上のペースで動画配信を続けており、Oakキャピタルの現状や今後の経営計画、さらには株主還元に対する私の考えなどを私自らお伝えしています。株主や投資家の皆さまから募集した質問に動画内で答えるなど、投資家とのコミュニケーションの手段としても積極的に活用している状況です。

「Koh-EN TV」の名前は、社名であるOak(樫の木)がある公園にステークホルダーの皆さまが集まる様子をイメージして決めました。Oakのもとに集まった人や情報が「縁」でつながることで、豊かな実りをもたらすことを目指しています。

「25・2・60」の実現に向けテコ入れを進める

−−新生Oakキャピタルを一言で表すなら?

新生Oakキャピタルのコンセプトとして掲げている、「価値共創企業」です。グループ全体の「価値」を、事業会社と「共」に「創」り上げることで、多角的に収益を上げられる体制づくりを目指します。

−−「価値共創企業」というコンセプトの狙いを教えてください。

特定の事業に頼った経営では、その事業の成績次第で収益が大きく増減する危険があります。そのためより安定した経営を目指すには、利益や成長が見込める事業を多く持つことが重要だといえます。

そのため、すでに傘下で展開する事業の見直しと経営改善に着手しています。また、収益性が高いと判断できる企業への投資や経営支援を行うことで、価値共創と収益の獲得ができる体制づくりも積極的に進めています。

−−傘下企業の事業見直しは、具体的にどのように進めていますか。

まず収益志向や投資スタイルなどによって「狩猟型ビジネス」「農耕型ビジネス」「開発型ビジネス」の3つに分類しました。同時に、本体のOakキャピタルは、純粋持株会社へと移行しています。

当社が現在、傘下に持つ主な事業は、金融事業、クリーンエネルギー事業、メディア事業、リゾート事業、ブランド事業、コンサルティング事業の6つです。グループ全体の収益力の多角化と強化を目指すため、事業会社は今後も増加が見込まれています。

・新生Oakキャピタルの事業分類

分類特徴該当業務
狩猟型ビジネス高収益/フロー型インベストメント・投資銀行業務 など
農耕型ビジネス安定収益/ストック型インベストメント・アセットマネジメント業務
・アドバイザリー業務 など
開発型ビジネス成長収益/ビルド型インベストメント・ビジネスマネジメント業務(IPO支援含む) など

これらの事業を通じ、今後は「25・2・60(ニーゴー・ニー・ロクゼロ)」という標語のもと、連結売上高250億円、連結純利益20億円、時価総額600億円を目指していきます。

・新生Oakキャピタルの経営目標

連結売上高連結純利益時価総額
250億円20億円600億円

−−一見すると、「25・2・60」は困難な目標に思われます。

2022年2月の第3四半期決算で発表した連結売上高は16億5,000万円でした。確かに、この数字を見る限り「25・2・60」という目標は実現困難と思われるかもしれません。

ですが、当社は過去に近い数字を達成した実績があります。2007年には243億円の売上高、2015年には連結純利益18億円、2005年には時価総額545億円という数字を残しています。この実績を考えれば、「25・2・60」という数字は決して不可能ではないはずです。

大きな数字を出すことに懐疑的な意見もありますが、成し遂げたい目標があるなら具体的な数字を掲げるべきと考えています。現在は、既に社員一丸となって、目標達成に向かって全力で取り組んでいます。

−−Oakキャピタル本体は、純粋持株会社となってどのような役割を担うのでしょうか。

Oakキャピタル本体は純粋持株会社としてグループの要となる役割を担います。具体的には、事業ポートフォリオを整理し、グループ経営の戦略を立てて各事業を支援します。しっかりとした要を中心にさまざまな事業が展開されることで、より安定的で継続性がある収益基盤を構築できると考えています。

−−グループの要として、より機動的な経営体制が求められると思います。体制面には、どのような手を打ったのでしょう。

再始動にあたり、現状の分析や経営課題抽出、グループ経営戦略立案を行う「経営戦略室」を新設しました。経営戦略室を牽引するのは、三井物産にて、多くの事業会社の経営管理を担当し、2021年6月に退任するまで同社のプラントシステム取締役を務めていた宗雪敏明です。

−−経営戦略室を新設した狙いを教えてください。

現状、Oakキャピタルは直近3期で連続赤字を出すなど、経営がうまくいっているとはいえません。そこで、まず経営戦略の見直しと課題の抽出が最優先だと考えました。

その結果、最重要課題として浮き彫りになったのが「狩猟型ビジネス」に頼りきった収益構造です。狩猟型ビジネスは、ハイリスク・ハイリターンの事業モデルです。そのため、大きな利益を上げられる年もある一方で振るわない年もあり、どうしても起伏が生じてしまいます。

「狩猟型ビジネス」に頼りきらない多角的な事業展開ができれば、収益を安定させ会社を継続的に成長させることができます。Oakキャピタルにとって、企業を安定成長させていくことは上場企業としても重要な責務です。

多角的な事業展開を実現し企業として飛躍するための一手は、すでに打っています。それが、先述の3つの事業分類です。分類することで各事業の役割や収益志向が明確になり、より効率的な経営戦略の立案や収益基盤の構築を可能にします。

グループ全体で着々と進む事業多角化

−−事業の見直し後、グループ企業ではどのような取組みを進めていますか。

大きなリターンが期待される「狩猟型ビジネス」は、新生Oakキャピタルでも引き続き経営戦略の柱のひとつです。具体的には、グループ企業のスターリング証券のエクイティファイナンス事業が該当します。同社には、引き続きグループの中核企業としての役割を期待しています。

同時に、スターリング証券は投資家と企業を細やかにつなぐ「ブティック型証券会社」と位置づけて再出発し、新たに「農耕型ビジネス」であるアセットマネジメント事業も展開します。これは、自らファンドを組成し運営することで利益を得る事業です。

そのため今後は、従来のエクイティファイナンス事業から得られる“キャピタルゲイン”に、アセットマネジメント事業から得られる“インカムゲイン”が加わり、2本柱の収益構造となります。新規事業が軌道に乗れば収益の予測が比較的立てやすくなるため、より長期的な経営戦略を実行できるようになるでしょう。

−−スターリング証券のアセットマネジメント事業について詳しく教えてください。

金融商品取引業を行うには、内閣総理大臣への申請によりライセンスを得なければなりません。その点、スターリング証券は「第一種金融商品取引業者」および「第二種金融商品取引業者」の両方のライセンスを保有しているという特色があります。

第一種金融商品取引業者には一般的な証券会社が該当し、有価証券の売買や店頭デリバティブ取引など、引受業務、私設取引システムの運営、有価証券等管理業務などを行います。一方の第二種は、投資助言業者や運用会社などが該当。集団投資スキームなどの自己募集やみなし有価証券の売買など、市場デリバティブ取引などが、対象の取引となります。

つまり、第一種と二種の両方のライセンスを保有しているスターリング証券は、大型投資案件を「ブティック型証券会社」ならではの切り口で、独特なファンドとして提供することができます。他のアセットマネジメント会社とは異なる特徴を持つファンドの組成を目指せる点が、大きな強みだといえるでしょう。

16ヵ国地域で事業を展開してきた私の持つ幅広いネットワークも活かしながら、海外の投資案件を組成したファンドも積極的に提供していきたいと考えています。

具体的に、組成を検討しているファンドのひとつが外国籍船舶のオペレーティングリースファンドです。そのほか、カリフォルニア州政府のCO2排出権取引ファンドや、先進国および新興国の不動産開発ファンド、グローバルなヘルスケアベンチャー企業へのIPO投資ファンドなどの提供も検討しています。

−−なかなか類を見ないユニークなファンドですが、一般投資家でも投資できるのでしょうか。

はい、これらのファンドは一般投資家の方にも投資いただけます。イメージとしては、まずスターリング証券が機関投資家しか投資できないような大型案件に投資し、それを「小口化」することで一般投資家の方々にも投資機会を提供するイメージです。

背景には、不平等な金融機会を民主化したいというOakキャピタルグループの想いがあります。 例えば、大きなリターンが期待できる投資の情報は機関投資家にしか流れず、一般投資家には提供されないことも少なくありません。これが、金融機会の不平等です。

この不平等を是正し、「金融機会を民主化」するためには、大きなリターンが期待できる投資機会を一般投資家にも提供する必要があります。そこで、私たちが投資した大型案件を小口化することで、少しでも平等な金融機会を実現していきたいと考えています。

−−スターリング証券以外のグループ企業ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

グループ企業で行なっている取り組みの例として、ノースエナジーが展開するクリーンエネルギー事業を紹介します。同社は収益力の向上を目指し、経営体制を刷新。三井物産での35年にわたる電気機械分野での事業経験を持つ宗雪と、財務担当として信頼の厚いOakキャピタルCFOの秋田が、ノースエナジーの取締役として就任しました。年間250基程度のペースで保有地に建設した低圧太陽光発電所を新電力会社などへ提供するといった、新しいビジネスもスタートさせています。

−−事業が多角化していくことで、事業間のシナジー生まれてくると思います。

そこもまさに事業多角化の狙いのひとつです。2021年12月には、既存の金融ビジネスとのシナジーから、決済ビジネスへの参入を決断しました。この市場に参入することで、同時に金融ビジネスの多角化も実現できると考えています。

参入にあたっては、私が代表を務めるユニヴァ・キャピタル・ホールディングスとの株式交換により、同社傘下のユニヴァ・ペイキャストとユニヴァ・ジャイロンをOakキャピタルの完全子会社化するという手段をとる予定です。

ユニヴァ・ペイキャストは、越境決済を強みとする決済システム提供会社です。中国の銀聯(ぎんれん)カードを、日本のインターネット上で初めて利用できるようにした実績を持っています。Univa Payによる世界中のあらゆる決済機能の一元化を目指しており、今後はインバウンドおよびアウトバウンドでの利用増加が期待されます。

ユニヴァ・ジャイロンは、デジタルマーケティングを行う会社です。自社のデジタルマーケティング支援ツールを、2万以上のウェブサイトに提供してきた実績があります。また、10年以上継続利用する大手企業も多数あり、多くの利用者から支持されているツールだと自負しています。

−−2社を完全子会社化するメリットを教えてください。

ユニヴァ・ペイキャストの完全子会社は、当然ながら決済ビジネスへの参入のためです。加えて、ユニヴァ・ジャイロンも完全子会社化したのは、同社の「デジタルマーケティング」を活用してより多くの人に決済システムを利用してもらう機会を創出するためです。店舗やECサイトに決済システムを導入しても、商品やサービスを購入したいと考える人がいなければシステムが利用されることはありません。そのため決済システムの利用を促すには、店舗やネットショップに顧客が訪れることを促すような経営支援も同時に必要なのです。

ユニヴァ・ペイキャストとユニヴァ・ジャイロンの両方を完全子会社化することで、よりスピーディーにさまざまな角度からの価値共創を目指せる体制づくりができると考えています。

それだけではありません。2社を完全子会社化したことで、Oakキャピタルは「決済システム」と「デジタルマーケティング」という開発型ビジネスをグループに取り込むことになります。収益の軸が多角化することで、グループ全体の安定性や継続性を向上させることができます。

−−「開発型ビジネス」領域において、その他の取り組みについては、いかがでしょうか。

開発型ビジネスは、今後成長が期待できる企業に資金支援および経営支援を行うことで、大きな利益の獲得を目指す事業です。この領域の取り組みとして、CSSホールディングスへの投資を行なっています。同社は、ホテルなどの食器洗浄などの「スチュワート事業」を中心に「フードサービス事業」、「空間プロデュース事業」を行う企業です。

創業者一族の筆頭株主から株式の一部譲渡を受け、既に人的支援を含めた経営支援も行なっています。CSSホールディングスの実質的な第2株主として企業価値のさらなる向上と収益の獲得を目指したいと考えています。

−−狩猟型、農耕型に並び「開発型ビジネス」へ注力する狙いを教えてください。

Oakキャピタルグループ内のみならず、ユニヴァ・キャピタル・グループ各社とも事業間シナジーを「共創」していくことにあります。例えば、CSSホールディングスの空間プロデュース事業と、ユニヴァ・キャピタルのイベント事業をコラボレーションすれば、新たな価値を創出できる可能性があります。

また、ノースエナジーのクリーンエネルギー事業や、ユニヴァ・キャピタルの省エネ事業をコラボレーションすることで、CSSホールディングスの事業のエネルギー効率を改善する効果が得られるかもしれません。このように開発型ビジネスでは該当企業の価値の創出はもちろん、Oakキャピタルが保有する事業との価値共創効果も期待できるのです。

株主との対話を通じて企業価値最大化へ

−−最後に株主さま含め、読者へのメッセージをお願いします。

経営目標として掲げている「25・2・60」は、容易に達成できる数字ではありません。しかし、過去に同水準の収益を達成したことがあることを考えても、不可能な数字ではないと考えます。新生Oakキャピタルとしてスタートした今、目標達成に向け社員一丸となって業務に取り組んでいます。

また、Oakキャピタルでは経営戦略のひとつとして、双方向からの情報発信を実現するためにホームページのリニューアルを行なっています。ステークホルダーの皆さまにとって、求めている情報を素早く提供すべく、シンプルかつ網羅性のあるホームページに設計しました。

新ホームページでは、2022年1月末から株主限定の掲示板も設置しています。Oakキャピタルは、私たちと2万人の株主さまが共同で保有する企業です。多くの株主の声を聞き対話の機会を持つことが企業価値の最大化につながると考えているため、ぜひ多くの投資家に利用いただきたいと思っています。

文・SmallCap ONLINE編集部