マーケットの注目テーマを分析!「全固体電池」

EVへの加速などで、全固体電池は2035年に2兆円の市場規模へ

2022年2月8日、日産自動車(7201)は欧州市場向けのガソリン車用エンジンについて、新規の開発をやめる方針を明らかにして大きな話題になりました。環境規制が一段と厳しさを増すなかで、電気自動車(EV)などに経営資源を集中させる狙いです。

そんな同社が注力している技術のひとつが「全固体電池」の研究開発です。2022年1月27日には、2024年に早くもパイロットプラントを立ち上げる構想を示しています。言うまでもなく、全固体電池に注目して研究開発を進めているのは日産自動車だけでなく、トヨタ自動車(7203)や本田技研工業(7267)など、その他各社も同様です。そもそも、現在EVで主流となっているのは液体の有機電解液が用いられているリチウムイオン電池ですが、これと比較して全固体電池はエネルギー密度が大きく向上するほか、小型化も可能で液漏れの心配もないため相対的に安全性も増すなど、多くのメリットを有しているとされます。

実際、メーカーの期待も高いのですが、経済的な側面からも期待値は高く、調査会社の富士経済では、全固体電池の世界市場が2035年に2兆円規模になるとの調査を示しています。全固体電池の話題になった際に、やはり自動車メーカーが最初にイメージされるとは思いますが、実際には関連部材なども含めれば多くの知名度の高い企業が関係しています。

あの日立造船や村田製作所なども開発に参入

例えば、名前からはまったくイメージできないかもしれませんが、日立造船(7004)は機械加工技術を活用した独自の製造方法により全固体電池(AS-LiB=All-Solid-state Lithium-ion Battery)を開発。この製造方法により、従来の全固体リチウムイオン電池の充放電時に必要であった機械的加圧が不要となるようです。また、村田製作所(6981)は2019年の段階で、業界最高水準の容量を持つ全固体電池(二次電池)を開発したと発表しています。

創業製品の乾電池で知られるマクセル(6810)も、2021年9月に硫化物系固体電解質を採用し、高電圧、高出力に特化したコイン形全固体電池を開発し、同年11月からサンプル出荷を開始しています。ADEKA(4401)は、将来の資源枯渇が懸念されているレアメタルを必要としない次世代⼆次電池用活物質、「硫⻩変性ポリアクリロニトリル(SPAN)」のサンプル提供を2018年末に開始しています。

そのほか第一稀元素化学工業(4082)は、次世代の全固体電池での実用化も視野に入れ、ジルコニウム化合物の研究開発を進めています。新東工業(6339)は、全固体電池生産の緻密化工程に最適な高圧ロールプレス装置を手掛けており、また日本ケミコン(6997)は、ブリヂストン子会社と全固体電池の電極に使う導電材料を2023年にも量産との報道が出ています。

今後の注目は、FDK、ニッポン高度紙工業、フロイント産業

ここまで全固体電池の関連銘柄の一部を紹介してきましたが、最後に今後の値動きに注目したい銘柄を厳選して取り上げておきたいと思います。

まず1社目はFDK(6955)です。高電圧・高容量である新規正極材料「ピロリン酸コバルトリチウム(Li2CoP2O7、LCPO)」を用い、積層チップ部品製造技術を用いたSMD対応の積層チップ型の全固体電池を開発しています。もともと電池関連として市場での位置づけが高いことから、物色局面が豊富な銘柄という印象です。株価は調整基調が継続していることもあり、資金が向かい始めて(トレンドが転換)から入っても間に合う点も手掛けやすさにつながるでしょう。足元では切り下がる13週移動平均線に上値を抑えられていますので、同線を捉えてくる局面においてリバウンド狙いのスタンスになりそうです。

(図=編集部作成、提供=楽天証券)


次はニッポン高度紙工業(3891)です。2021年10月には、「全固体電池向けに、不織布による支持体のソリューション提案を強化」すると化学工業日報が報じています。同社はもともと約80品種の電池用セパレータを国内外の電池メーカーに供給している企業です。リチウムイオン電池用セパレータにおいては、世界で初めて植物由来の高性能セルロース系セパレータを開発した実績などもあり、電池関連としての市場の位置づけも高いため、今後全固体電池関連のテーマ性も強まってくれば、見直しが向かう可能性も十分あるとみています。なお、通期計画に対する第3四半期営業利益の進捗率は88%を超えています。

最後はフロイント産業(6312)です。同社は、医薬品・食品・化学などの業界向け造粒・コーティング装置などを手掛ける傍ら、山形大学と先程触れた第一稀元素化学工業と共同で全固体電池の正極コーティング技術を過去に開発しています。ダークホース的な位置づけで頭の片隅に入れておいてもよいかもしれません。株価は昨年3月安値に接近していますので、2点底形成後のリバウンドも意識されやすいでしょう。

(図=編集部作成、提供=楽天証券)


全固体電池は、材料の観点で「酸化物系」と「硫化物系」にわかれるほか、構造的な観点では「バルク型」と「薄膜型」にわかれます。さすがに現段階ではここまで細分化して物色されているわけではありませんが、さらに量産化および導入が進むなかで物色の矛先が狭まってくる可能性も十分考えられますので、各社の技術動向などはしっかりと追っていく必要があるでしょう。

文・村瀬智一(RAKAN RICERCA)