円安進行による日本株への影響は? ポジティブ、ネガティブ銘柄の特徴


2022年に入り、外国為替市場では、「円安ドル高」の動きが加速しています。一般に、円安は輸入企業に対しコスト負担が増すなどの悪影響が生じますが、輸出企業など外需関連株には追い風にもなります。円安ドル高の傾向は、日本と米国の金融政策や金利差から今後も続いていくと見込まれます。

円安が株式投資に与える影響とはどのようなものがあるのでしょうか。解説していきます。

目次

1. 2022年前半、円安が進行する背景

 1-1.米金融政策による影響

 1-2.日米金利差の拡大から円売りドル買いが加速

1-4.今後の日本株への影響は?

2.円安が好材料となるの銘柄は?

 2-1.為替感応度が高い銘柄が円安ポジティブ銘柄

 2-2.円安は輸出セクターや自動車部品銘柄にとって追い風

 2-3.大型の円安ポジティブ銘柄の代表格はトヨタ自動車

3.円安が悪材料となる銘柄は?

 3-1.円安は輸入セクターにとってはネガティブ要因

 3-2.原料、食品、旅行会社も要注意セクター

4.株価上昇を狙うなら中小型の円安恩恵株を選ぼう

 4-1.クリヤマホールディングス(東証2/3355)

 4-2.兼房(東証2/5984)

 4-3.千代田化工建設(東証2/6366)

 4-4.大黒屋ホールディングス(東証2/6993)

 4-5.内海造船(東証2/7018)

5.まとめ:円安恩恵銘柄かつバリュー銘柄に注目したい

米金融政策の動向が重要

個別の銘柄に注目すると、円安銘柄への投資がパフォーマンス向上させる可能性あり

今後は、市場トレンドとバリュー相場の観点にも着目

1. 2022年前半、円安が進行する背景

2022年は年明けから円安が加速し、一時は1ドル=116円台まで円安が進みました。その後はやや調整し、2022年2月21日執筆時点で1ドル=約115円近辺での推移となっていますが、今後の株式投資の判断へと役立てるには、為替変動の背景を理解しておく必要があります。

具体的には、主に以下の理由によって引き起こされていると考えられます。

1-1.米金融政策による影響

米国では国内経済を下支えするため、企業が資金調達を行ないやすくなる「ゼロ金利政策」と、市場への資金供給(マネタリーベース)を増加させる「量的緩和策」を続けてきました。

しかし、雇用状況が改善したことと長引く量的緩和策により、市場への資金供給が過大な物価上昇(インフレーション)をもたらすとの懸念が高まったため、2022年中に量的緩和策の縮小と金利の利上げに踏み切るとの想定が示されています。

1-2.日米金利差の拡大から円売りドル買いが加速

国家間の金利差は為替相場に大きな影響を及ぼします。2022年2月21日執筆時点で日本国債の利率は2年債では0.01%、10年債でも0.1%と低金利状態が続いていますが、米国では金融政策の変更により量的緩和政策の縮小と段階的な利上げに踏み切っており、2年債の利率は0.88%、10年債では1.88%となっており両国間の金利差が拡大しています。

米国の利上げは米国債への投資に有利に働くため、日本国債よりも相対的に高利率な米国債への投資のために円を売ってドルを買う流れが加速しています。

1-4.今後の日本株への影響は?

米国の金融政策は経済状況を見極めながら行なわれるため、同国の市況が悪化し緩和解除が想定通りに進まなかったり、逆に前倒しになったりする場合は、為替相場に大きな変動を与える可能性があります。

また、金融政策を決定するFRB(連邦準備制度理事会)では、金融緩和策の縮小のみならずQT(量的引き締め)についても積極的な姿勢を見せています。

QTは金融緩和策によって中央銀行が買い入れた国債などの資産を償却・売却するなどしてバランスシートを縮小させるもので、米国債の大口の買い手が消滅することにより国債金利のさらなる上昇が生じると見込まれます。

一般的に、米国債の金利が上昇すると、それまで株式市場に流れていた資金が矛先を変えて米国債に流れます。株が売られ、国債が買われる動きになることから、日本株に関しても下落圧力が生じると予想されます。

特に日経平均株価の構成銘柄などで海外事業の売上高が大きい企業には大きなインパクトとなります。円安下での株式投資は為替動向を見極めながら円安がポジティブな影響を及ぼす銘柄を選択していくことが重要となります。また、よりリターンを選好する場合は、中小型株などボラティリティの大きい銘柄も検討してみると良いでしょう。

2.円安が好材料となるの銘柄は?

海外との商取引が盛んな企業の場合、想定される為替レートに基づいて事業計画や業績見通しを立てています。この想定為替レートは実勢レートを参考に企業が独自の分析を加えて算出しており、基本的にこの想定為替レートよりも円安に振れると営業利益にポジティブな影響が生じます。

2-1.為替感応度が高い銘柄が円安ポジティブ銘柄

為替感応度とは、企業が想定している為替レートが1円増減した場合、売上げや利益にどれほど影響が及ぶかを示したもので、一般的に海外事業の規模が大きいほど為替感応度も大きくなります。為替感応度が高い企業では、1円の円安によって営業利益にプラス400億円の影響を見込むケースもあります。

円安は基本的に輸出セクターにとって有利に働きますが、1円の円安がどれほどの恩恵となるかは企業によって異なります。円安ポジティブ銘柄を探す場合は為替感応度と想定為替レートをチェックすることが重要です。

2-2.円安は輸出セクターや自動車部品銘柄にとって追い風

円安は、輸出セクターに追い風となります。国内で同じコストをかけて製品を作ったとしても、円高時に比べ、円安時は製品を安い価格で輸出することができるからです。価格が安ければ市場での競争力が高まるため、事業収益の改善につながります。

輸出セクターは、自動車や電気機械などが代表的です。特に自動車の場合、その製造にはエンジンやブレーキといった金属部品や内装における繊維業、エンジン制御や各部計測のための電子部品といったさまざまなパーツが使用されており、それぞれが別個の企業によって自動車メーカーに供給されています。

円安により海外で日本車の競争力が高まって自動車の生産台数が増加した場合は、そのサプライチェーンである自動車部品銘柄も連れだって業績改善の恩恵を受けられる可能性があります。円安ポジティブ銘柄を探す際は関連企業のほうにも目を向けてみるとよいでしょう。

2-3.大型の円安ポジティブ銘柄の代表格はトヨタ自動車

為替感応度が高い大型株として知られるのがトヨタ自動車です。同社は2022年3月期第3四半期の決算発表で、連結営業利益(2021年4〜12月)が2兆5,318億円に上ったと発表しました。前年同期比でプラス1兆239万円という結果ですが、この増加要因のうち4,450億円は為替変動の影響による増益としています。

為替変動を見込んで株式投資を行なう場合は、各社の為替戦略を合わせて確認することをおすすめします。

3.円安が悪材料となる銘柄は?

円安になると日経平均は上昇する傾向にあるため、基本的に株式投資では円安はプラス材料です。しかし、当然ながら円安がマイナス材料となる銘柄も存在します。よく確認したうえで投資先を選ぶようにしましょう。

3-1.円安は輸入セクターにとってはネガティブ要因

円安は海外からの輸入による調達コストが高くなってしまうため、輸入セクターにネガティブな影響が及びます。そのため、円安が進むとコストプッシュによる物価上昇が生じますが、競合他社が多い、代替品があるなどの理由から値上げが難しい業種や、物価上昇により個人消費が低下するため高級品が買い控えられ、小売セクターなどの業績が悪化する恐れがあります。

3-2.原料、食品、旅行会社も要注意セクター

円安が進むと物価が高くなり、私たちの生活に影響を及ぼします。なぜなら製造業や食品加工業では、円安が半導体や大豆などの輸入コスト高騰につながりやすく、国内で製造する場合においても重油・LNG(液化天然ガス)などエネルギーの価格が上がるからです。

また、海外旅行も現地で使えるお金が減るなど円安の影響を直接受けるので、旅行業にも円安のネガティブな影響が及びます。

4.株価上昇を狙うなら中小型の円安恩恵株を選ぼう

為替感応度の高いトヨタ自動車は円安恩恵株として魅力的ですが、大型株であり急激な成長は期待しづらく最低投資額も高めなため、以下のような今後成長が見込める中小型の割安・成長株を狙うことも検討してみるといいでしょう。

1.クリヤマホールディングス(東証2/3355)

産業・建設用のゴム部品や合成樹脂の製造販売を手掛ける企業で、北米での事業展開を行なっています。2021年12月期は、米国の経済活動が活発化したことにより飲料用や外壁塗装用のホースの販売が好調に推移したほか、北米事業において円安基調が追い風に。通期売上高は、前期比19.2%増を達成しました。

2.兼房(東証2/5984)

兼房は、木工・自動車などの産業用刃物の大手企業です。2022年3月期第3四半期は、国内のみならず米国やアジア向け中心に売上げが増加。また営業外利益として、4,300万円の為替差益を計上しています。なお、会計基準の変更により対前期比増減率は記載していません。

3.千代田化工建設(東証2/6366)

三菱系の総合エンジニアリング企業で、LNGプラントにおいては世界トップクラスとなっています。エネルギー分野はSDGsへの対応が世界的に注目されていますが、千代田化工建設においても脱炭素や水素関連など環境分野への投資・研究開発が進められています。

2022年1月には、2018年に受注していた世界最大規模のエチレンプラントを米国にて完工。2022年3月期第3四半期の決算発表では、売上高の通期業績予想を前年同期比で4.9%減としているものの、営業利益は前年同期比56.8%増としています。

同社は過去に数回の経営危機に陥っている点や、他社との係争費用が発生している点など留意すべき点もありますが、先述のとおり世界的に関心の高い脱炭素や水素分野での成長戦略を描いています。今後の動向に注目したいところです。

4.大黒屋ホールディングス(東証2/6993)

中古ブランド品などの売買や質事業を行なう、大黒屋を主力事業としています。大黒屋は海外からの観光客によるインバウンド需要が高く、円安は本来であれば追い風材料となるのですが、現状は新型コロナウイルスの世界的流行による渡航制限の影響を受けています。

しかし、オムニチャネル化の推進などもあり、2022年3月期第3四半期の決算発表では売上高の通期業績予想を前期比41.0%増と見込んでいます。

依然として新型コロナウイルスのリスクがあるため注意が必要ですが、制限が解除された場合は円安による海外観光客の増加と滞留していた資金がブランド品購入に向く可能性があるため、業績の回復と株価の上昇が期待できます。

5.内海造船(東証2/7018)

中型船からフェリーまでさまざまな船種を建造する、日系の造船企業です。2022年3月期第3四半期の決算発表で、売上高の通期業績予想は前期比2.8%増と小幅に見ていますが、2022年2月の発表で新規にLNG燃料フェリー2隻の造船を受注した点は評価できるでしょう。

今後新型コロナウイルスのリスクが低下し経済活動が再開した場合、流通が活発しタンカーなどの造船・修理のニーズが高まると見込まれ、円安によって人件費が相対的に低下した場合さらなる受注獲得に向けて追い風になると予想されます。

反面、円安によって製造・修理に必要な鉄鋼の輸入価格も上昇するため、コストアップをどこまで吸収・価格転嫁できるかが懸念点となります。

5.まとめ:円安恩恵銘柄かつバリュー銘柄に注目したい

円安恩恵銘柄は、想定為替レートと為替感応度をチェックすることで把握することができますが、成熟した大型株では株価の大幅な上昇は期待しにくいため、割安かつ円安を追い風にさらなる成長が期待できる中小型株に注目してみるとよいでしょう。

米金融政策の動向が重要

為替の動向は二国間の金利差などの影響を受けるため、米国の量的緩和の解除や段階的利上げといった金融政策の変更が予定通りに行なわれるか否かが重要となってきます。円安恩恵銘柄へ投資する際は、円安基調が今後も維持されるかを注視していくことをおすすめします。

個別の銘柄に注目すると、円安銘柄への投資がパフォーマンス向上させる可能性あり

円安恩恵銘柄を選ぶ際は、米国などで海外事業展開を行なっており、特定の商品・分野において優越的な位置を占めていたり円安によって海外からの引き合い・インバウンドが見込めるといった銘柄を選ぶことで投資パフォーマンスのさらなる向上が期待できます。

今後は、市場トレンドとバリュー相場の観点にも着目

米国の金融政策の変更により金利が上昇に転じた場合、資金調達のコストが上がるため成長株(グロース株)の成長性にかげりが生じる恐れがあります。日米の株式市場には相関性があるといわれており、日本でもグロース株からバリュー株へ目線が変わる可能性があるため、市場トレンドにも注意を払うことをおすすめします。

文・菊原浩司