投資家も注目!食の未来を変える、フードテック市場と関連銘柄を解説

食品産業の新たな可能性として、フードテックへの注目が高まっています。フードテック銘柄への投資を始めるなら、基礎的な知識や広まった背景、そして多岐にわたるフードテックビジネスを知っておくことが重要です。いくつかの企業を比較検討し、魅力的な銘柄への投資をスタートしましょう。

目次

1.世界の食糧不足を救う「フードテック」とは?

 1-1.フードテックとは?

 1-2.フードテックが注目されている背景

2.フードテック市場の魅力とは?

 2-1.フードテック市場への投資額は年々増えている

 2-2.フードテック市場は2025年に700兆円規模の市場に

3.フードテックが解決する食関連の課題

 3-1.生産領域:農業へのICT利活用領域を通じて食糧不足・飢餓を解決

 3-2.流通領域:鮮度維持(食の安全)や非効率な運搬の課題解決

 3-3.中食・外食領域:減少する外食産業の需要を中食ニーズに転換

 3-4.次世代食品領域:食品そのものをテクノロジーで変える次世代食品(植物性たんぱく質による代替ミート等)

 3-5.健康食品領域:食から健康を維持するための健康食品領域

 3-6.調理技術領域:調理器具などの食品の調理に関わる道具に関する領域(人手不足の解決)

4.国内外のフードテック関連銘柄

 4-1.ビヨンド・ミート(NASDAQ)

 4-2.ディア・アンド・カンパニー(NYSE)

 4-3.トリンブル(NASDAQ)

 4-4.シグマクシス(東証1部/6088)

 4-5.YE DIGITAL(東証2部/2354)

 4-6.トプコン(東証1部/7732)

 4-7.セラク(東証1部/6199)

 4-8.不二製油グループ本社(東証1部/2607)

5.国内のフードテック市場の今後は?

 5-1.海外で進むフードテック

 5-2.今後は「食に関するデータ」とサービスの連携が肝となる

まとめ:国内外のトレンドを追いながら有望銘柄を探そう

1.世界の食糧不足を救う「フードテック」とは?

「フードテック」とは、“フード”と“テクノロジー”を合わせた造語です。ここではまずフードテックの基礎知識と、注目される背景を解説します。

1-1.フードテックとは?

フードテックは、先進技術を食品産業に活用し新たなサービスを生み出すことです。明確な定義はありませんが、持続可能な食料供給および、食を通じたQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指す新たなビジネスと考えられています。

1-2.フードテックが注目されている背景

フードテックが注目される背景には、世界的な食糧不足への危機感があります。アジアや中東、アフリカといった人口が増えている新興国では、2050年には食糧不足がさらに深刻化すると考えられているからです。

・持続可能な食料供給を可能とするフードシステムへの関心の高まり

世界的な食糧不足について関心が高まるきっかけとなったのは、2015年の国連サミットで採択された「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」です。SDGsは「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」をいい、目標達成のために17のゴールが設定されています。

ゴールのひとつである「2:飢餓をゼロに」では、飢餓を終わらせ、食料安全保障および栄養の改善を実現し持続可能な農業を促進することが求められています。しかし国連世界食糧計画(WFP)によると、2020年時点では世界人口の1割にあたる最大8億1,100万人が飢餓に苦しんでいるとされ、このままではSDGsの目標を達成できません。その解決策のひとつとして注目されているのがフードテックなのです。

2.フードテック市場の魅力とは?

フードテックに関心が集まるもうひとつの理由は、人が生きていくうえで“食”が不可欠なものだからです。総務省統計局の発表によると、2050年の世界人口は約97億人になると予測されています。将来的に90億を超える人が対象となるマーケットの大きさもフードテックの魅力のひとつです。

2-1.フードテック市場への投資額は年々増えている

フードテック市場への投資額は年々増加しています。「農林水産省フードテック研究会」の報告書(2020年)によると、世界のフードテック分野への投資額は2012年の2,344億円から、2019年に2兆1,790億円へと拡大しています。各国の取り組みは年々拡大しており、今後も投資額が増えていくと考えられます。

2-2.フードテック市場は2025年に700兆円規模の市場に

フードテックは、2025年には700兆円規模の市場になるという予測もあります。世界的に成長が期待できる分野への投資を考えているなら、フードテック市場は魅力的な投資先のひとつとなります。

3.フードテックが解決する食関連の課題

フードテック市場に投資をする際には、そのビジネスがなぜ必要とされているのか、どのような課題を解決するのかを考えることが重要です。

1-2で紹介したように、フードテックが注目されたきっかけのひとつは世界的食糧不足です。しかし、食に関する問題はそれだけではありません。食の安全性の確立や労働力の確保、食がもたらす健康への影響などさまざまです。フードテック銘柄を選ぶ際には、どの領域でどのような解決策をもたらすビジネスなのかをしっかりと考える必要があるでしょう。

3-1.生産領域:農業へのICT利活用領域を通じて食糧不足・飢餓を解決

食料を生産する農業や畜産に関わる領域が、生産領域です。生産領域では、以下のようなフードテックの活用が行われています。

【生産領域でのフードテックの活用例】
・ロボットやドローンを活用した自立灌漑システムや農薬散布システムの提供
・農地管理のデータ化
・AI(人工知能)による畜産管理

フードテックを生産領域に取り入れることで、業務の効率化や省人化による生産性の向上を図れます。生産領域でのフードテックの活用は、世界的な食糧不足や飢餓の解決につながると考えられます。

3-2.流通領域:鮮度維持(食の安全)や非効率な運搬の課題解決

生産した食料を消費者に運ぶ領域が、流通領域です。流通領域では、以下のようにフードテックが活用されます。

【流通領域でのフードテックの活用例】
・EC(電子商取引)サイトを活用した生産者による直販システムの確立
・インターネットを活用した新デリバリーサービスの提供

フードテックを流通領域に活用することで非効率な運搬が軽減され、食の安全性の向上も期待できるでしょう。また販売チャネルが増加することで、食品ロスの軽減や新たな販売機会の創出も見込まれます。

3-3.中食・外食領域:減少する外食産業の需要を中食ニーズに転換

食べ物を消費する形態には、レストランなどで食事をする外食とデリバリーやテイクアウトを利用する中食があります。外食・中食領域におけるフードテックの活用例は、以下のとおりです。

【中食・外食領域でのフードテックの活用例】
・キャッシュレス決済やセルフオーダーシステムの取り入れ
・最新技術を活用した冷凍食品の販売

キャッシュレス決済やセルフオーダーシステムを取り入れることで、中食・外食領域での省人化が図れます。また、最新技術を活用した冷凍食品を開発することで、より安全でおいしい食事の提供も可能になるでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、外食産業は売り上げが大きく下がっています。日本フードサービス協会の調査によると、2020年における外食産業全体の売り上げは前年比84.9%でした。これは1994年に調査を開始して以来、最大の下げ幅です。しかし、テイクアウトやデリバリー需要に下支えされたファーストフード業態の売り上げは前年比96.3%にとどまっています。フードテックによる冷凍食品の販売や食品自動販売機などの活用で、減少する外食産業需要の中食への転換が期待されます。

3-4.次世代食品領域:食品そのものをテクノロジーで変える次世代食品(植物性たんぱく質による代替ミート等)

最新技術を利用し食品自体をテクノロジーで変えていくのが、次世代食品領域です。次世代食品領域では、以下のようにフードテックが活用されています。

【次世代食品領域でのフードテックの活用例】
・植物性の肉(代替肉)の製造
・培養肉や完全食品(※)の開発・製造
(※完全食品とは人が生きるために必要な栄養素を十分に含んだ食品のこと)

代替肉を利用することで、健康や宗教上の理由で肉が食べられない人にも、より多くの食の選択肢を提供できるでしょう。培養肉や完全食品の開発は、食糧不足の解決にもつながります。

3-5.健康食品領域:食から健康を維持するための健康食品領域

健康維持や健康管理ができる新たな食の提供を目指すのが、健康食品領域です。健康食品領域では、以下のようにフードテックが活用されています。

【健康食品領域でのフードテックの活用例】
・代替たんぱく質食品の提供
・グルテンフリー食品の提供

健康を維持するには、バランスの良い食事は不可欠です。しかし、健康的な食事を毎食続けるのは簡単ではありません。フードテックで新たな食品を開発できれば、より手軽に健康を気遣った食事ができるでしょう。

3-6.調理技術領域:調理器具などの食品の調理に関わる道具に関する領域(人手不足の解決)

食品を調理する器具や道具に最新技術を活用するのが、調理技術領域です。調理技術領域では、フードテックが以下のように利用されています。

【調理技術領域でのフードテックの活用例】
・AIを取り入れた電子レンジなどスマート家電の提供
・ひとりひとりに合ったパーソナライズドレシピの提供

調理技術領域では、食のパーソナライズ化が重視されます。パーソナライズ化することで、調理や準備の負担を減らし、健康的で満足度の高い食事が実現できます。

4.国内外のフードテック関連銘柄

ここからは、国内外のフードテック関連銘柄を紹介します。農業に最新技術を活用し、業務の効率化や生産性の向上を目指す“アグリテック”に注力する企業もピックアップしました。

(海外)

4-1.ビヨンド・ミート(NASDAQ)

2009年に米国で設立されたビヨンド・ミートは、植物由来の原料を用いた代替肉のパイオニアとも言える企業です。菜食主義者を主なターゲットとした、植物性のミートパティやソーセージなどを開発・製造・販売しています。ホームページでは製品を活用したレシピも多数紹介しています。

4-2.ディア・アンド・カンパニー(NYSE)

ディア・アンド・カンパニーは、米国が誇る世界最大の農業・建設機械メーカーで、アグリテックの代名詞ともいえる企業のひとつです。米国で農地や人員が縮小する中で、ロボティクスやAIを駆使した農機を開発することで、省人化と同時に農業の高度化を推し進めています。

4-3.トリンブル(NASDAQ)

トリンブルは、米国のGPS開発・製造会社です。GPSとソフトウェアを組み合わせた最新技術による農地管理や作付け計画などを行うことで、生産性と収益性の向上を目指しています。日本国内では、2003年に設立したニコンとの合弁会社ニコン・トリンブルも知られています。

(国内)

4-4.シグマクシス(東証1部/6088)

シグマクシスは、幅広い分野でコンサルティングサービスを行う会社です。特に食と料理に関するイノベーションには力を入れており、多くの新規事業立ち上げを支援してきました。2015年に米国で始まったフードテックイベント「スマートキッチンサミット」の日本版を、2017年から主催しています。

4-5.YE DIGITAL(東証2部/2354)

YE DIGITALは、主に製造業におけるビジネス変革をIoT(Internet of Things /モノのインターネット)技術で支援する企業です。フードテック関連では、検査品質向上・人手不足などの課題解決を支援するAI画像判定サービス「MMEye」を提供し、2020年に開催された第1回フードテックジャパンにも参加しました。

4-6.トプコン(東証1部/7732)

トプコンは、光学技術を基盤とするシステムやIoT・ネットワークを駆使し、医・食・住に関する社会問題の解決を目指す会社です。食においては、農業機械の自動操舵・ガイダンスシステムを開発し、農作業の自動化と効率化を実現させています。2021年7月には、農業機械メーカー大手のクボタとスマート農業分野での共同研究契約を締結しました。

4-7.セラク(東証1部/6199)

セラクはICT(情報通信技術)を活用した新しい商品やサービスを創造し、持続可能な社会の実現を目指す企業です。そのひとつとして、農業のICT導入を支援しています。具体的には作物の生産から流通、販売まで総合的にICTの力でサポートする「みどりクラウド」を提供し、農業における業務効率と生産性の向上に取り組んでいます。

4-8.不二製油グループ本社(東証1部/2607)

不二製油グループ本社(不二製油)は、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の研究開発を行っている企業です。近年では高機能食品素材の研究開発により、ソイプロテイン(大豆たんぱく質)を配合したスムージーの販売なども行っています。2021年4月には、オランダのフードテック特化型ファンドへの出資も発表するなど、欧州市場への参入も視野に入れたビジネスを展開しています。

5.国内のフードテック市場の今後は?

フードテック市場は世界的に拡大していますが、米国の市場投資額が9,574億円である一方で、日本は97億円と約100分の1です。国内市場が過熱する前に、一歩先をいく海外のビジネストレンドを掴んでおきましょう。

5-1.海外で進むフードテック

海外では、フードロボットやキッチンOSなどが、日本に先駆けて広がっています。特にキッチンOSは、いま欧米で急速に普及が進むフードテックのトレンドになっています。キッチンOSは、IoT調理家電がWi-Fi、Bluetoothなどで料理関連のアプリと連携するための基盤となるソフトウェアで、米国発のInnit(イニット)、SideChef(サイドシェフ)、Chefling(シェフリング)、アイルランド発のDrop(ドロップ)などがしのぎを削っています。

生活様式が多様化しており健康意識が高まる日本国内でも、こうした新たなフードテックトレンドは今後広がっていくと考えられるでしょう。

5-2.今後は「食に関するデータ」とサービスの連携が肝となる

国内でフードテックが拡大するカギとなるのは、「食に関するデータ」の連携だといわれています。人口が急激に増えている新興国などは、フードテックを活用した食料不足の解消が優先されるでしょう。一方、飽食といわれる国内では、パーソナライズ化や省人化に焦点を当てたビジネスが注目されています。

新たな食品や製品を開発するだけでなく、そこにデータを連携させ消費者ひとりひとりに最適な食を提供できるサービスには、ビジネスチャンスが生まれるでしょう。

まとめ:国内外のトレンドを追いながら有望銘柄を探そう

フードテックとは、食品にテクノロジーを組み合わせた新しい産業です。その領域は幅広く、農地のAI管理からロボットによる食品生産、流通のシステム化、代替食品の製造など多岐にわたります。

フードテック市場は今後、最も成長が期待されるもののひとつです。多くの新ビジネスが誕生しているため、投資をするにあたっては国内外のトレンドなどをしっかりと確認し、成長性が見込まれる企業選びが重要になるでしょう。

食はすべての人にとって不可欠な産業です。食に関する大きな変革が起きている今、フードテック関連銘柄をポートフォリオに加えてみてはいかがでしょうか。

文・N.ヤマモト