ROEが高い企業の特徴は?指標の見方や投資時の活用法

企業経営の効率性を示す「ROE」は、株式投資をする際に知っておくべき指標の1つです。ROEを読み解けば、企業の収益性や成長性を予想することができます。本記事では、指標の計算方法や目安、活用時の注意点などを解説します。割安で成長性がある銘柄への投資を目指しましょう。

目次

1.ROEとは?

 1-1 資本効率を見極める財務指標

 1-2 ROAとの違い

 1-3 ROICとの違い

2.ROEが高い企業の特徴は?

 2-1 ROEが高い企業を紹介

 2-2 ROEが高い企業の共通点

 2-3ROEが高くなりやすい業種

3.ROEの求め方:デュポン分解

4.ROEの目安

5. ROEを見る際の注意点

 5-1.方法1:ROAやROICと比較する

 5-2.方法2:自己資本比率と比較する

 5-3.方法3:PER、PBRと比較してみる

6.株式投資でROEを活用する場合には総合的に見よう

1.ROEとは?

ROEとは、自己資本利益率(Return On Equity)のことで、企業が自己資本をどれほど効率的に運用して利益を得られているかを示す指標です。ROEを読み解くことで、企業の収益性や成長性を予測できます。

ROEは次の計算式で求めることができ、数値が高いほど経営効率がよいといえます。

1:ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100
2:ROE(%)=EPS(1株当たりの当期純利益)÷BPS(1株当たりの純資産)×100

ROEを紐解くにあたっては、企業の資産について理解しておきましょう。企業の資産(総資本)は、バランスシート上で説明すると、次のように自己資本と負債(他人資本)にわけられます。

総資本
(総資産)
他人資本(負債)
→社債や借入金など
自己資本
→資本金や利益剰余金など

負債(他人資本)は、出資者以外の債権者から調達した資金です。長期・短期借入金、支払手形、買掛金、社債などが該当します。自己資本とは、企業の株主(自己)から調達した資金です。資本金や利益剰余金、法定準備金などがあります。

1-1 資本効率を見極める財務指標

ROEを調べれば、利益の効率性がわかります。たとえば、次の2社で考えてみましょう。

A社B社
当期純利益10億円10億円
自己資本50億円40億円
ROE
(当期純利益÷自己資本)
20%
(10億円÷50億円×100)
25%
(10億円÷40億円×100)

どちらも当期純利益は10億円と同じ金額ですがROEを見ると、A企業よりもB企業のほうが自己資本で多くの利益を生み出したことがわかります。自己資本は、企業の出資者である株主が投資した資金です。つまりROEは、「株主が投資した資金で、どれくらいの収益を上げたか」がわかる指標といえます。

投資家は、企業の成長とそこから得られる利益の分配を期待して出資を行うのが一般的です。そのため、投資の資金効率がわかるROEは、投資家にとって重要な指標の1つといえるでしょう。

1-2 ROAとの違い

利益の効率性がわかる指標にはROEのほかにROAがあります。ROAとは、総資産利益率(Return On Asset)のことで計算式は、次のとおりです。

ROA(%)=当期純利益÷総資産×100

ROEでは“自己資本”に対する利益の大きさを計るのに対し、ROAは“総資産”に対する当期純利益の割合を算出します。つまりROAを確認することで、社債や借入金などの負債(他人資本)も含めた利益の効率性を知ることが可能です。

企業がより大きな利益を狙うためには、先行投資として負債を抱えることは少なくありません。借り入れた資金を活用して事業を展開することで、自己資金だけでは実現できない利益を目指すのです。そのため、業績が好調な企業でも負債を抱える企業はたくさんあります。負債を含めた総合的な利益を確認するには、ROAも重要な指標となるでしょう。

1-3 ROICとの違い

利益の効率性を計るもうひとつの指標に、ROICがあります。ROICは投下資本利益率(Return On Invested Capital)のことで、次の式で求めることができます。

ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(株主資本+有利子負債)

※(営業利益×(1-実効税率))は税引後営業利益のこと

ROEやROA では“当期純利益”を用いて算出するのに対し、ROICでは本業で稼いだ金額を示す“税引後営業利益”を用いることが大きな違いです。株主資本(自己資本)と有利子負債(他人資本)は、本業に投下した資本を指します。ROICはROEやROAに比べて、より本業の収益性を計ることができる指標だといえるでしょう。

2.ROEが高い企業の特徴は?

企業の収益性を表すROEは、投資銘柄を選ぶ材料として多くの投資家が活用しています。高ROEの銘柄を見付けるには、ROEが高い企業の特徴や、ROE水準が高い業界などを知っておくと便利です。

2-1 ROEが高い企業を紹介

株価情報サイトなどでは、高ROE銘柄ランキングが掲載されています。高ROE銘柄の検討がつかない、できるだけ簡単に高ROE銘柄を探したいと考えるなら、ランキングから選択するのも有効な方法になるでしょう。一例として、民間の株価情報サイトなどが発表している高ROE銘柄上位15社を次の表に紹介します。

▽高ROE銘柄上位15社(2021年6月執筆時点)

銘柄コード業種市場今期ROE(予想)
ブイキューブ3681情報・通信業東証1部47.44
ナブテスコ6268機械東証1部41.91
ベネフィット・ワン2412サービス業東証1部40.88
ケイアイスター不動産3465不動産業東証1部40.77
ロードスターキャピタル3482不動産業東証マザーズ40.33
ケアネット2150サービス業東証マザーズ38.90
Macbee Planet7095サービス業東証マザーズ36.11
デジタルホールディングス2389サービス業東証1部35.78
JCRファーマ4552医薬品東証1部35.13
ローランド7944その他製品東証1部32.72
東京エレクトロン8035電気機器東証1部32.58
Eストアー4304情報・通信業JASDAQ31.58
タマホーム1419建設業東証1部29.56
ベース4481情報・通信業東証1部29.02
学究社9769サービス業東証1部28.89

2-2 ROEが高い企業の共通点

ROEが高い企業には、以下の2つの特徴があります。

1. 当期純利益が高い
当期純利益が高いと、ROEは大きくなります。ROEの高い銘柄が投資先として魅力的といわれるのは、このためです。

2. 総資本における負債が占める割合が大きい
総資本における負債が占める割合が大きい場合にも、ROEは高くなります。ある程度の負債は、利益を生むうえで必要です。しかし、大きすぎる負債は、企業の経営状態を不安定にする要因となりかねません。高ROEの要因が負債額にもとづく場合には注意しましょう。

2-3ROEが高くなりやすい業種

不動産業など特定の業種では、総資本における負債の割合が大きくなります。なぜならビジネスモデルによっては、金融機関などから資金を借り入れ自己資本以上の資金で事業を行う(レバレッジを効かせる)必要があるからです。業種によって負債の大きさにどのくらいの違いがあるのかを、次の表で確認しましょう。

▽業界別 負債比率の一例

業種負債比率(負債比率:負債÷自己資本×100(%))
建設業139.34%
製造業114.95%
情報通信業68.58%
運輸業・郵便業183.60%
卸売業152.91%
小売業201.93%
不動産業・物品賃貸業179.05%
学術研究、専門・技術サービス業30.97%
宿泊業・飲食サービス業504.44%
生活関連サービス業・娯楽業160.50%
サービス業(他に分類されないもの)114.50%
引用:中小企業実態基本調査(2019年度決算実績)

負債の大きさは、業種によって大きく差があります。借り入れが多い業種では、ROEが高くなる傾向があります。そのためROEを見る際には、同業他社のROEと比較することも重要なポイントとなります。

3.ROEの求め方:デュポン分解

ROEを深く読み解くには、デュポン分解を活用しましょう。デュポン分解とは、ROEを以下の3要素に分解して考える方法です。

1:収益性(当期純利益÷売上高)
売上高に対しどのくらい純利益を上げたかを計る指標。収益性が上がれば、ROEも高くなる。
2:資産の効率性(売上高÷総資本)
保有する資産に対しどのくらいの売上高を上げたか(生産性)を計る指標。資産の効率性が上がれば、ROEも高くなる。
3:財務健全性(総資本÷自己資本)
総資本に対し、どのくらいの負債(他人資本)を利用しているかを計る指標。負債の増加により、ROEは高くなる。

デュポン分解では上記の3要素を使い、次の式でROEを求めます。

ROE=収益性×資産の効率性×財務健全性

デュポン分解を活用すれば、ROEが上昇している原因が明確になります。負債の大きさも見られるため、投資先選びの大きな材料の1つとなるでしょう。経営者の視点では、デュポン分解を利用することで経営上の問題点を洗い出しやすくなります。

4.ROEの目安

ROEを株式投資に活用するため、判断基準となる目安の数値を押さえておきましょう。一般的に、ROEは8%を超えると評価されますが、国内でROE上位の銘柄とされるのは10%以上です。

日本企業のROEは、米国や欧州に比べ低いといわれます。ROEが低い理由の1つが、リスクをとった事業展開を好まないという日本企業特有の考え方にあります。負債を活用した企業活動は大きな利益を生む可能性がありますが、同時にリスクも高まります。多くの日本企業はリスクを抑えた経営を行う傾向が強いため、負債額が抑えられROEもあまり上がらないのです。

そのためROEが上がりにくい日本企業は、収益力が低く投資する魅力がないと考える人もいるでしょう。しかし少ない負債で一定の業績を出しているのは、安定した企業だからともいえます。ROEを参考にした株式投資では、なぜその数値が出ているのかを深掘りし、収益性やリスクの大きさなどを計ることが肝心です。

5. ROEを見る際の注意点

ROEは、高いほど収益性が高く成長が期待できるとされますが、2-2で解説したとおり負債が多い企業もROEが高くなる点には注意が必要です。ROEが高い企業を見つけたら、株式購入を決める前に財務状況を確認しておきましょう。負債を多く抱えた高ROE銘柄を見分けるには、3つの方法があります。

5-1.方法1:ROAやROICと比較する

高ROEの銘柄を見るときには、ROAやROICの推移も確認しましょう。ROEが高くROAが低い企業は、負債が多い可能性があります。その場合、財務健全性が低い可能性があるため注意が必要です。

ROICは、負債も含めて事業に投下した資金の収益性を計れる指標です。ROICが高いなら、負債の大小にかかわらず稼ぐ力が強い企業だといえます。

5-2.方法2:自己資本比率と比較する

自己資本から利益の効率性を求めるROEでは、企業がどのくらいの負債(他人資本)を抱えているかわかりません。そこで参考になるのが自己資本比率です。自己資本比率は、総資産のうち自己資本がどのくらいの割合を占めるか表す指標です。自己資本比率は、以下の式で計算します。

自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100

ROEが高い銘柄だったとしても自己資本比率が低ければ、会社の安定性が低いと考えられます。経済産業省が発表した企業活動基本調査によると、2018年、2019年度の自己資本比率の平均は、次のとおりです。投資銘柄を探す際の参考にしましょう。

▽2018~2019年度 業種別自己資本比率一覧

業種自己資本比率
(2018年)
自己資本比率
(2019年)
鉱業、採石業、砂利採取業69.0%59.2%
製造業51.4%51.0%
電気・ガス業23.5%27.1%
情報通信業50.5%50.0%
卸売業38.4%39.3%
小売業42.8%43.5%
クレジットカード業・割賦金融業10.1%11.6%
物品賃貸業13.1%12.7%
学術研究、専門・技術サービス業43.3%41.2%
飲食サービス業45.4%42.3%
生活関連サービス業、娯楽業37.6%41.0%
個人教授所36.9%35.9%
引用:経済産業省企業活動基本調査(2018年、2019年度実績)

5-3.方法3:PER、PBRと比較してみる

ROEとあわせてPERとPBRを確認することで、より詳細な投資判断ができます。PERとPBRの概要は、次のとおりです。

・PER:株価が1株当たり当期純利益の何倍まで買われているかを示す。低いほど割安な銘柄とされる
・PBR:株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを示す。小さいほど割安な銘柄とされる

ROE とPER、PBRには、以下の関係があります。

PBR=PER×ROE

本記事では、ROEが高いほど成長性があり株価が上がりやすいと解説してきました。それは、上記の式を変形すると「PER=PBR÷ROE」となり、ROEが高くなるほどPERが低くなる(割安な銘柄になる)ことからもわかります。

この3つの指標の関係性を利用すると、ROEが高くPERが低い銘柄は割安な銘柄だといえるでしょう。一方でPERが高くROEが低い銘柄は、割安とはいえません。また、ROEが低くPBRが高い銘柄は割高と考えられます。

ROEは企業の収益性や成長性を計れるものの、株価の割安・割高などを判断することはできません。ROEとあわせてPERとPBRを見ることで、より株価に近い投資判断ができるようになります。

6.株式投資でROEを活用する場合には総合的に見よう

ROE(自己資本利益率)は、企業の収益性や成長性を計る指標です。ROEが高い企業は収益性が高いといわれますが、高いほどよいわけではありません。負債の増加によってROEが上昇しているケースもあるため、ROAやROIC・自己資本比率といった指標もあわせて確認しましょう。

また、ROEとPER・PBRを併用すると、株価の割安・割高も知ることができます。ROEを活用し、収益性と成長性、割安性を満たしたお宝銘柄への投資を狙ってみてはいかがでしょうか。

文・N.ヤマモト