自己資本比率の目安はどのくらい?株式投資への活かし方
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株式投資を成功に導くには、企業の成長性とともに安定性の確認が重要になります。本記事で解説する「自己資本比率」は、企業が抱える負債の大きさから安定性(倒産のしづらさ)を計る指標です。自己資本比率の基本事項や目安・分析方法を確認し、リスクを抑えた株式投資を目指しましょう。
目次
1.自己資本比率とは?
1-1 自己資本とは?
1-2負債に依存しない企業を探そう
2.自己資本比率の求め方
2-1 自己資本比率の計算式
2-2 貸借対照表をチェック
3.自己資本比率の目安はどのくらい?
3-1 目安は40〜50%、70%以上は優良企業、少なくとも30%は確保したい
3-2 自己資本比率が高過ぎても問題
4.自己資本比率の分析方法
4-1 同業他社との「横比較」をする
4-2 過去推移との「縦比較」をする
5.「自己資本比率」を株式投資にどう活かす?
5-1 自己資本比率だけでなく、営業CF等のキャッシュフローに注目する
5-2 成長企業は自己資本比率が低いケースもある
5-3 自己資本比率が低い場合、過去の増資事例の確認を
5-4 自己資本比率はいろいろな指標や企業活動も踏まえ総合的に見よう
6.自己資本比率で企業の安全性をチェックしよう
1.自己資本比率とは?
財務の健全性を計る「自己資本比率」は、企業の安定性を知るための重要な指標です。ここでは、まず自己資本比率の基本事項を確認しましょう。
1-1 自己資本とは?
自己資本比率を考えるには、まず企業の資本について知っておくことが必要です。
企業が保有する資本は、自己資本と負債(他人資本)の2つにわけられます。このうち、資本金(株主からの出資)や利益剰余金(過去の利益の剰余分)の占める部分が自己資本で、支払手形や借入金、社債などが負債です。自己資本は負債と異なり返済の義務がなく、株主の持ち分とされます。
自己資本比率とは、企業が保有する資本のうち自己資本が占める割合のことです。自己資本比率が高い企業は、倒産の可能性が低く安定性が高いと考えられます。
1-2負債に依存しない企業を探そう
投資において自己資本比率が重要なのは、負債に依存していない企業かどうかを判断するためです。
企業には、負債を極力抑えて利益を積み上げるタイプと、負債を活用してより大きな利益を狙うタイプがあります。単純に負債が多い企業が悪いというわけではありません。負債を返済していけるだけの利益を生み出せるなら、それも戦略の1つです。
負債が多い企業に投資をする際に気をつけなければならないのは、倒産です。株主は、企業の解散時に財産の分配を受ける権利を持っています。しかし、倒産時に財産よりも借金のほうが多い場合には、株主は何も受け取れません。つまり、投資資金がゼロになってしまうのです。
このように株式投資では、投資した企業の倒産はなんとしても避けたい事態です。そのために、自己資本比率を確認し、安定性と負債の大きさをあらかじめ確認することが重要です。
2.自己資本比率の求め方
自己資本比率は株価情報サイトでも確認できますが、投資家自身で計算できるようになると便利です。気になる銘柄の決算書から数字を読み取り、算出にチャレンジしてみましょう。
2-1 自己資本比率の計算式
自己資本比率は、以下の計算式で求めます。
自己資本比率(%)=自己資本÷総資本(他人資本(※)+自己資本)×100 ※他人資本は負債のこと。支払手形・買掛金・短期借入金・社債・長期借入金などが該当する |
たとえば、総資本2億円で自己資本が2,000万円の企業の自己資本比率は10%(2,000万円÷2億円×100)です。自己資本が5,000万円に増えると、自己資本率は25%(5,000万円÷2億円×100)に増加します。
2-2 貸借対照表をチェック
自己資本比率は、財務諸表の1つである貸借対照表(バランスシート)から読み取った数字で計算します。貸借対照表の仕組みは、次のとおりです。
資産の部 | 負債の部 |
---|---|
・流動資産 ・固定資産 | ・借入金 ・社債など |
純資産の部 | |
・資本金 ・利益剰余金 |
資産の部には、集めた資金の保有・運用方法を記します。負債の部および純資産の部では、事業に必要な資金を集めた方法が記載されます。では、実際に貸借対照表の具体例を見てみましょう。
貸借対照表
単位:百万円
科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
(資産の部) | (負債の部) | ||
流動資産 | 4,200 | 流動負債 | 2,050 |
現金及び預金 | 1,400 | 買掛金 | 1,300 |
受取手形 | 1,000 | 未払金 | 550 |
売掛金 | 1,400 | 短期借入金 | 200 |
有価証券 | 300 | 固定負債 | 3,500 |
商品 | 100 | 長期借入金 | 1,600 |
固定資産 | 6,300 | 社債 | 1,900 |
土地 | 1,800 | 負債合計 | 5,550 |
建物 | 2,300 | (純資産の部) | |
機器 | 1,200 | 株主資本 | 4,950 |
車両運搬具 | 500 | 資本金 | 3,900 |
商標権 | 300 | 利益剰余金 | 1,050 |
その他の資産 | 200 | 純資産合計 | 4,950 |
資産合計 | 10,500 | 負債純資産合計 | 10,500 |
たとえば上の貸借対照表では、総資本が105億円で、このうち負債(他人資本)が55億5,000万円、純資産(自己資本)が49億5,000万円です。この場合の自己資本比率は、47.14%(49億5,000万円÷105億円×100)と計算できます。*小数点第2位以下四捨五入
3.自己資本比率の目安はどのくらい?
企業は健全な財務状態を保つため、定期的に負債と資本を見直します。投資家自身で経営の安全性を見極めるため、自己資本比率の目安を知っておきましょう。
3-1 目安は40〜50%、70%以上は優良企業、少なくとも30%は確保したい
自己資本比率は、高いほど企業の安定性が増すとされます。一般的な自己資本比率の目安は、次のとおりです。
▽自己資本比率の目安
自己資本比率 | 企業の財務状態 |
---|---|
70%以上 | 超優良企業 |
50~69% | 優良企業 |
20〜49% | 一般的な企業 |
0〜19% | 資本力に乏しい、または資本欠損 |
マイナス | 債務超過 |
適正な自己資本比率は、業務内容や会社の規模によっても変わります。一定の基準を保ったうえで、その企業に合った自己資本比率を考えることが重要なポイントとなるでしょう。
3-2 自己資本比率が高過ぎても問題
高いほど安全とされる自己資本比率ですが、高い状態が続いている場合にはいくつかの注意点があります。
・無借金経営だが、銀行との付き合いがない場合は注意
借り入れがなく自己資本比率が高い場合は、倒産の可能性が極めて低い超優良企業だといえるでしょう。しかし借り入れ実績がない企業は、なんらかの理由で資金が必要になったときに、金融機関からお金を貸してもらえない可能性があります。
金融機関の貸し出しでは、財務の健全性や収益性に加え過去の返済実績(信用力)も審査されます。そのため、財務状況や収益力に問題がない企業でも、借り入れ実績がない企業は資金を借りられないケースがあるのです。将来的に借り入れをする可能性があるなら、返済実績を作っておくことも戦略として考えられます。
・企業の成長のために資金を活用できない
自己資本比率が高くなる要因には、内部留保(利益剰余金)の多さが挙げられます。内部留保は、これまでの利益を蓄えたものです。内部留保が十分にある企業は、不況などにより収益が悪化したときにも耐えられる体力があると言えるでしょう。
ただし、内部留保が高いからといって一概にすべてが優良企業ともいえません。内部留保が高い企業の中には、企業の成長のために利益を活用せず、現金をため込んでいる場合があるからです。そのような企業は、安定性が高くても成長性が低いと考えられます。
自己資本比率が高い企業を見るときには、資本の内容まで確認することがポイントです。なお、財務省が発表した2018年度の全規模・全業種の内部留保率は57.8%でした。業種別・資本金別では、以下のとおりです。
▽2018年度 業種別・資本金別内部留保率(※)
業種 | 1,000万円未満 | 1,000万円~1億円 | 1億円~10億円 | 10億円以上 |
---|---|---|---|---|
製造業 | 98.0% | 88.3% | 32.4% | 49.8% |
非製造業 | 98.0% | 75.4% | 51.2% | 52.7% |
※内部留保率(%)=内部留保÷当期純利益×100
内部留保率は、業種や会社の規模によって大きく差が出ます。自己資本比率を考える際には、内部留保もあわせて確認し、企業の経営方針や成長性も考慮することがポイントとなるでしょう。
4.自己資本比率の分析方法
自己資本比率を読み込むと、企業の安定性以外にもわかることがあります。ここでは、自己資本比率の効果的な活用方法を確認しましょう。
4-1 同業他社との「横比較」をする
自己資本比率が適正な水準かを考えるには、同業他社との比較が必要となります。経済産業省が発表した企業活動基本調査によると、2018年度の産業別自己資本比率は、次のとおりです。
▽2018~2019年度 業種別自己資本比率一覧
業種 | 自己資本比率 (2018年) | 自己資本比率 (2019年) |
---|---|---|
鉱業、採石業、砂利採取業 | 69.0% | 59.2% |
製造業 | 51.4% | 51.0% |
電気・ガス業 | 23.5% | 27.1% |
情報通信業 | 50.5% | 50.0% |
卸売業 | 38.4% | 39.3% |
小売業 | 42.8% | 43.5% |
クレジットカード業・割賦金融業 | 10.1% | 11.6% |
物品賃貸業 | 13.1% | 12.7% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 43.3% | 41.2% |
飲食サービス業 | 45.4% | 42.3% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 37.6% | 41.0% |
個人教授所 | 36.9% | 35.9% |
・財務の健全性を測ることができる
属する業界の水準よりも自己資本比率が高い場合は、財務が健全な企業だといえるでしょう。一方、同業他社よりも自己資本比率が著しく低い場合は、経営に問題があるかもしれません。その場合は負債額や当期純利益なども確認し、収益性や成長性を確認しておくことが必要です。
・中長期投資では、安心して長く持ち続けることができるかがポイント
中長期投資を考えている場合、自己資本比率が高い銘柄を選定することはより重要となります。なぜなら長期保有では、途中で倒産しないことと、安定的に収益を出し続けていけることが重要だからです。株式投資を利用した長期での資産形成を目指すなら、自己資本比率が高い銘柄が有力な候補となるでしょう。
4-2 過去推移との「縦比較」する
自己資本比率の安定性や健全性をより掘り下げたい場合は、数年分の数値の確認がポイントとなります。過去の数値を確認することで、企業の財務状況にどのような変化が起こってきたのかを読み取ることができます。
自己資本比率が変動する要因は、次のとおりです。
▽自己資本比率が変動する要因
上がる要因 | 下がる要因 |
---|---|
・利益の増加 ・不良資産の処分 ・固定費の圧縮 ・増資 | ・赤字の発生 ・自社株買い ・負債の増加 |
・上がる要因
自己資本比率は利益が増加したときだけでなく、不良資産の処分や固定費の圧縮により負債を返済することでも増加します。また新株発行による増資も、自己資本を増やす方法の1つです。
・下がる要因
自己資本比率は、赤字の発生や負債の増加以外に自社株買いを行ったときにも下がります。自社株買いとは、すでに市場に流通している株を自社で買い戻すことです。発行済株数が減ることで、自己資本が減少します。
5.「自己資本比率」を株式投資にどう活かす?
自己資本比率を株式投資に活用するポイントは、その他の指標も併用した総合的な判断をすることです。最後に、自己資本比率を活用する具体的な方法を紹介します。
5-1 自己資本比率だけでなく、営業CF等のキャッシュフローに注目する
2-2で解説したとおり、自己資本比率は貸借対照表から算出します。貸借対照表では読み取れない、より細かい資金繰りを確認するならキャッシュフローもチェックしましょう。会社の資産状況を確認する貸借対照表とは異なり、キャッシュフローでは手元のお金の流れが確認できます。貸借対照表とキャッシュフローをあわせて確認すれば、万が一粉飾が行われている場合に見抜ける可能性もあるでしょう。
5-2 成長企業は自己資本比率が低いケースもある
これから大きな成長を目指す企業の中には、自己資本比率が低い企業もあります。その理由には、以下が挙げられます。
・成長段階のため、現状の利益は小さい
・知名度不足により資本が集めづらい
・設備投資などの費用を賄うために負債額が増える
成長銘柄の場合、企業の成長に伴い自己資本比率が改善されるケースも少なくありません。つまり、魅力的なビジネスモデルを打ち出す成長企業への投資は、自己資本比率が低くても最終的に大きなリターンを狙えることがあるのです。
5-3 自己資本比率が低い場合、過去の増資事例の確認を
自己資本比率が低い銘柄への投資を考える場合は、過去の資金調達手段を確認しましょう。たとえば、増資を行ったにもかかわらず比率が低いままといった企業は、経営に問題があるかもしれません。
・その会社がデットで調達するかエクイティで調達するか確認したい
新たに資金を調達するには、「デット」と「エクイティ」の2つの手段があります。それぞれの違いは、次のとおりです。
▽デットとエクイティの違い
デット | エクイティ | |
---|---|---|
特徴 | ・返済期間や金利が定められている ・負債に分類される(自己資本比率の低下) ・返済義務が生じる | ・返済期限がない。規模によっては投資先の支配権を伴う場合もある ・自己資本に分類される(自己資本比率の上昇) ・株式の希薄化が起きる可能性も |
具体的な調達方法 | ・社債 ・銀行借り入れ | ・新株発行 ・新株予約権付社債の発行 |
ここで投資家が気をつけたい点は、エクイティで増資をしたときに株の希薄化が起こる可能性です。新株発行などを行うと、市場に流通する株式数が増えるため、1株当たりの株の価値が下がります。そのため、株価が下がる可能性があるのです。成長性がある企業なら、株価の下落は一時的なものにとどまるでしょう。しかし増資した資金をうまく事業に活かせないと、株価が低下したままになる恐れもあります。
自己資本比率が低い企業への投資では、過去にどのような増資が行われていて株価や財務状況がどのように変化したのかまで確認することで、今後の成長性を見極められるでしょう。
・小型株では増資において、株価が上がるケースがよくみられる
増資により一時的に株価が下がっても、増資に見合う利益を出した企業の株価はいずれ上昇します。その点で、時価総額が低いものの成長性が期待できる小型株では、株価が上がるケースがよく見られます。小型株が新株発行をしたときには、投資先として検討しても良いかもしれません。
5-4 自己資本比率はいろいろな指標や企業活動も踏まえ総合的に見よう
自己資本比率は、あくまでも総資本に対する自己資本の割合を表す数値にすぎません。自己資本比率をもとに投資銘柄を決めるには、キャッシュフローや時価総額・事業計画などを確認したり、ROEといった他の指標を併用したりすることも重要です。企業の成長性を計るには、さまざまな視点から企業を俯瞰的に見た総合的な判断が必要です。
6.自己資本比率で企業の安全性をチェックしよう
自己資本比率は企業の財務健全性を表す指標です。数値が高いほど財務状態が健全で、数値が低ければ負債が多い企業だと考えられます。ただし自己資本比率が低くても、借り入れにより得た資金を事業に上手に活用できている企業であれば、将来的に大きな成長を遂げる可能性もあります。自己資本比率とあわせて、成長性や収益性がわかる指標なども考慮し、複数の視点から投資銘柄を検討してはいかがでしょうか。
文・N.ヤマモト