流動比率の目安はどれくらい?株式投資で実践に役立つ基礎知識
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株式投資の初心者の中には、「流動比率」が健全性や安全性を知る指標であると理解しているものの、どのように捉えて投資判断に役立てていくか、いまいち要点がつかめないという方もいるかもしれません。
本稿では、株式投資のファンダメンタルズ分析(=財務状況や業績を分析して将来予測を立てること)において重要な指標の1つである流動比率について、教科書的な定義だけでなく、過去のデータと比較する方法を紹介します。また流動比率を、企業をとりまく状況や先行きの見通しなどを含めた総合的な分析に用いることで株式投資の実践に役立てていくための方法を解説します。
目次
1.流動比率とは?
1-1 流動比率は短期的な返済能力を簡易的に判断する指標
1-2 流動資産とは?
1-3 流動負債とは?
1-4 流動資産、流動負債はどのように確認すればよい?
2.流動比率の計算方法
2-1 流動比率の計算方法
2-2 流動比率を見ることのメリット
2-3 流動比率を見ることのデメリット
3.流動比率の目安は?
3-1 理想は200%、100%を割り込むと危険
3-2 流動比率を見る際の注意点
4.株式投資に流動比率をどう活かす?
4-1 リスク分析に活かす
4-2 さらに深堀りをして「手元流動性」も調べてみる
5.上場企業の流動比率を見てみよう
5-1 東証一部上場企業3社の流動比率
5-2 マザーズ時価総額上位
(まとめ)流動比率はビジネスモデルや企業の成長フェーズでも異なる
1.流動比率とは?
株式投資のファンダメンタルズ分析において、ひとつの指標になるのが流動比率です。主に企業の財務健全性や経営の安全性を知るために用いられるものですが、この基本情報だけでは本質的な意味を理解しづらいかもしれません。
はじめに「流動比率」という用語の意味から、その基本と概要を簡単におさらいしましょう。
1-1 流動比率は短期的な返済能力を簡易的に判断する指標
流動比率とは、その企業の「返済能力」を示す指標で、流動資産を流動負債で割ることで求められます。
流動資産は流動性の高い資産、つまり現金やそれに準ずる資産なので、借入金の返済に充てることができるお金です。一方、流動負債は流動性の高い負債、つまり短期負債のことを指しています。つまり流動比率は、その企業の短期負債に対する返済能力がわかります。返済能力が高いということは、当面資金不足などが起こるリスクが低いと判断できます。
流動資産と流動負債について、もう少し詳しく見ていきましょう。
1-2 流動資産とは?
流動比率を計算するために用いられる流動資産の定義は、「1年以内に現金化できる資産」です。現金はもちろんのこと、売掛金や受取手形、棚卸資産なども流動資産に含まれます。
1-3 流動負債とは?
流動負債についても同様に、「1年以内に支払い期日がやってくる債務」と定義されています。先ほど流動比率について短期的な返済能力を示すものと解説したように、流動比率は1年以内に支払い期日がやってくる債務に対してきちんと支払えるだけの資金があるかどうかが示されます。
1-4 流動資産、流動負債はどのように確認すればよい?
流動比率を求めるためには、流動資産と流動負債それぞれの数値を確認する必要があります。この2つはいずれも財務諸表に含まれる貸借対照表に記載されており、ここにある数値から計算することで求めることができます。
企業の貸借対照表は決算情報などからチェックすることが可能で、上場企業であればネット上で簡単に閲覧することができます。
2.流動比率の計算方法
続いて流動比率の計算方法と、流動比率をファンダメンタルズ分析に用いることのメリットとデメリットについて解説します。
2-1 流動比率の計算方法
流動比率は、以下の計算式で求めることができます。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
流動資産を流動負債で割って、100を掛けたものが流動比率となります。評価方法については後述しますが、流動資産のほうが流動負債よりも多ければ100%以上になり、逆に流動負債のほうが多ければ100%を下回ることになります。
2-2 流動比率を見ることのメリット
流動比率を見ることのメリットは、企業の財務健全性を簡易的に推し量ることができる点です。流動比率を計算するための流動資産と流動負債はいずれも貸借対照表に記載されている公開情報であるため、初心者にもわかりやすく、実用性が高いと言えるでしょう。株式投資を検討している企業のチェック項目に入れておく価値は大いにあります。
2-3 流動比率を見ることのデメリット
流動比率を見ることのデメリットとして挙げられるのは、過信は禁物という点です。流動比率は流動資産を流動負債で割って求めるわけですが、この流動資産が必ずしも本当にすぐ現金化できる資産ばかりかというと、そうともいえない部分があります。
棚卸資産は流動資産に含まれますが、換金性が高いわけではありませんし、前払費用は現金資産ではあるものの支払うことが決まっているので、流動負債の返済に充当できるものではありません。
流動比率を見る際には、このように必ずしも経営の実態をすべて反映しているわけではなく、あくまでも簡易的な目安であると考えるべきです。必ずしも万能な指標ではないことに注意しましょう。
3.流動比率の目安は?
流動比率が100%であるかどうかを1つの基準として評価するのが一般的です。100%より高いか低いか、そして100%を上回っている場合はどれだけ上回っているか、下回っている場合はどれだけ下回っているかが経営状態を見極める判断材料になります。
3-1 理想は200%、100%を割り込むと危険
流動比率の理想は、200%です。200%ということは流動負債の2倍にあたる額の流動資産、つまり返済能力があることになります。流動比率が200%を超えている企業は、健全な資金繰りをしている可能性が高いと考えられます。
そして、流動比率100%は重要な節目です。100%ということは流動資産(返済能力)と流動負債が同額なので、理論的には資金繰りに悪影響はないはずですが、経営に「絶対大丈夫」はありません。何か想定外の出来事が起こって資金繰りに変化が起こるとたちまち流動負債が上回ってしまうため、100%だからといって安全圏ではありません。
そして、流動比率が100%を下回っているのは危険なシグナルです。短期的な債務を返済する資産が不足しているのですから、そのままだと資金ショートを起こしてしまう懸念があります。しかも流動比率が100%を下回っていることは公開情報から推測できることなので、資金繰りにも悪影響を及ぼすでしょう。
ただし、消費者から現金を受け取るようなビジネスモデルの企業の場合は、少々事情が異なります。なぜなら、売上が現金で入るため、流動比率が低くてもただちに資金繰りが悪化する可能性は低いと考えられるからです。事実、上場企業であってもBtoCのビジネスを展開している企業の中には流動比率が100%を下回っているものの、それがあまり問題視されていないことがあります。
このように流動比率を単純に数値だけで見るのではなく、その企業の業態やお金の流れをしっかりとチェックすることで、より流動比率の数値から多くのことを分析することができます。
3-2 流動比率を見る際の注意点
流動比率から企業のファンダメンタルズ分析をする際に、2つの注意したいポイントがあります。
1つめは、流動資産の内訳です。もちろん流動資産の大半が現金の預貯金であれば問題ないように見えますが、現金であっても前払費用は返済に充当できませんし、棚卸資産をすぐに現金化できるかどうかはわかりません。
流動比率を評価する際には、その計算式のもとになる流動資産の内容にも注目すると、経営状態をより正確に推し量ることができます。
もう1つは、無借金経営に対する評価です。無借金経営は健全性が高く安全であると認識されることもありますが、無借金経営だからといって健全な経営とは限りません。
その理由は、経営のレバレッジです。いかに資金を有効に活用し、利益を上げるかが企業経営の本質です。資金効率を高めるために企業は資金調達を行い、より利益を大きくしようとします。このように自己資本だけでなく他人資本も活用して投資効率を高める考え方を、レバレッジといいます。
企業の成長には投資が必要で、無借金経営にこだわりすぎるあまりに先行投資をあまり行っていないようでは、その企業の成長性に疑問符がついてしまいます。現状は健全経営かもしれませんが、成長力を失ってしまうと長期的には無借金経営がマイナス材料にもなりかねません。
無借金経営が健全であると評価できるのは、すでに成熟している産業やオンリーワン企業、競合が少ない企業など先行投資をあまり必要としない企業の場合などです。
また、無借金経営というのは金融機関からお金を借り入れていないというだけで、仕入れに伴う買掛金といった債務がないわけではありません。この事実を踏まえると「無借金経営」というより「低借金経営」と言い換えたほうが正確かもしれません。
流動比率で企業の経営状況を評価すると、どうしても無借金であることが最高の評価になってしまうのですが、無借金経営がもつ意味をしっかりと理解して評価する必要があります。
4.株式投資に流動比率をどう活かす?
流動比率を計算し、その数値を得たところで、実際の株式投資にどう役立てていくのかという具体的な解説に進みます。この内容をマスターすると、株式投資でのリスク分析の精度や、成長性のある企業を見極めるスキルが向上するでしょう。
4-1 リスク分析に活かす
流動比率を用いた企業の評価において、最も役立つのがリスク分析です。単純に流動比率が100%を下回っている企業は、現在の短期負債を返済する原資をもっていない可能性があり、このままだと短期的に資金ショートを起こすリスクがあります。資金ショートを起こすと倒産してしまうため、流動比率が100%を下回っている企業については要注意です。
割安株投資などでは、株式の中長期的な保有を伴う戦略であることが多いですが、その場合には流動比率が高いことが安心材料になります。そのため、バリュー投資では対象となる企業の流動比率をしっかりチェックし、株式の保有中もその推移を把握しておくことが重要です。
売上が現金で入るビジネスの場合は流動比率が低くても、ほかの業態ほど問題視する必要はないのですが、たとえばコロナショックのような外的要因で急速に消費が冷え込んでしまうような事態になると、流動比率の低さが経営に直撃してしまいます。そのため、売上が現金で入るビジネスであっても流動比率が低いことは全く問題がないというわけではなく、経営体力が低ければ重大な出来事によって資金が枯渇してしまう可能性はあります。
このように、多面的に流動比率を分析すると株式投資のリスク度を見極めることができます。
4-2 さらに深堀りをして「手元流動性」も調べてみる
流動比率と似た指標に、手元流動性があります。こちらも企業の経営状態が健全であるかを知るのに役立つものですが、流動比率と比べるとさらに現実に即した分析が可能です。
手元流動性を求める計算式は、以下のとおりです。
手元流動性 = (現預金 + 短期有価証券) ÷ 月商(年間総売上÷12)
この計算式を見てもわかるように、手元流動性を計算するために用いられる流動資産は現預金と短期有価証券のみです。それ以外の流動資産を組み入れていないため、本当の意味で負債の返済に充てることができる資産から安全性を算出できます。
流動資産を月商で割るため、計算結果は「〇ヵ月」となります。たとえば手元流動性が「3ヵ月」となったのであれば、その企業は3ヵ月分の返済資金をもっており、経営の健全性は高いと判断できます。
「アフターコロナ」を見据えた動きはすでに株式市場でも見られますが、その時代を生き残れるかどうかを分析するのに経営の健全性を読み解くことは重要です。その意味でも手元流動性は有効な指標といえます。
5.上場企業の流動比率を見てみよう
上場企業の財務諸表から、実際に流動比率がどれだけあるのかを計算してみたいと思います。東証1部とマザーズのそれぞれで時価総額の上位銘柄から3つずつ選び、流動比率を計算してみました。
5-1 東証1部上場企業3社の流動比率
東証1部の上場銘柄で時価総額が上位のトヨタ自動車、ソニーグループ、ソフトバンクの流動比率を計算してみた結果は、以下のとおりです。
▽東証一部・時価総額上位企業の流動比率(2021年3月期・連結)
銘柄名 | 流動資産 | 流動負債 | 流動比率 |
---|---|---|---|
トヨタ自動車 | 22兆7,768億円 | 21兆4,604億6600万円 | 約106% |
ソニーグループ | 7兆2,187億4,400万円 | 7兆8,154億2,400万円 | 約92% |
ソフトバンク | 4兆338億4,500万円 | 5兆2,936億3,600万円 | 約76% |
危険であるとされる100%を下回っている銘柄、もしくは100%ギリギリの銘柄が並びます。流動比率だけを見ると返済資金が枯渇するのはないかと危惧してしまいますが、これらの大企業は収益力が高く、それを資金化できる体力があります。
また、大企業は流動性が高くないものも含めて資産を豊富に保有しています。さらに大企業は資金調達力が高いことも考慮され、投資家によっては流動比率が低いことをあまり問題視しないこともあります。そのため流動比率の低さが株価に影響を与えている構図は、中小企業株ほど見られません。
5-2 マザーズ・時価総額上位企業の流動比率
続いて、東証マザーズ市場の時価総額上位銘柄からフリー、メルカリ、マネーフォワードを選んでそれぞれの流動比率を計算してみました。
▽マザーズ・時価総額上位企業の流動比率(連結)
銘柄名 | 流動資産 | 流動負債 | 流動比率 |
---|---|---|---|
フリー | 167億1,414万5,000円 | 57億3,139万8,000円 | 約291% |
メルカリ | 1,692億7,700万円 | 1,101億2,800万円 | 約154% |
マネーフォワード | 134億6,032万円 | 82億4,040万5,000円 | 約163% |
いずれも流動比率が100%を超えていますが、フリーの流動比率が291%と突出して高いことが目を引きます。これらの新興企業は株式上場などによる資金調達で資金が潤沢になっていることが多く、それゆえに流動比率も高くなりやすい傾向があります。
反対に新興企業は経営基盤が盤石であるとは限らず、先ほど紹介した大企業並みの流動比率になってしまうとリスクが高いと見なされる恐れがあります。新興企業にとっては流動比率も経営の健全性を示す重要な要素となるため、「流動比率の高い企業=健全性が高い企業」であると解釈されて株価が上昇し、マザーズの時価総額でも上位にランクインします。裏を返すとマザーズに上場しているような新興企業で流動比率が低いと、リスクを懸念する投資家が多くなり、株価上昇を阻む要因になりえます。
(まとめ)流動比率はビジネスモデルや企業の成長フェーズでも異なる
流動比率の概要から計算方法、そして株式投資に役立てる方法について解説してきました。公開情報をもとに、比較的手軽に企業の経営状態を把握するのに役立つ指標なので、銘柄選びや投資判断に役立ててください。
本文中でも解説しているように、流動比率は単純に数字だけを比較するのではなく、その企業のビジネスモデルやフェーズなど、さまざまな要素を考慮して読み解くとより正確な投資判断ができるようになります。
文・田中タスク